わたし物語(完結)

作者:小伏史央 本作はライトなラノベコンテスト応募作品です。本文の無断転載を固く禁じます。

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 トイレを出たわたしは、思ったよりも時間がかかったことにあせっていた。一難去ってまた一難、とはこのことだ。わたしがんばれ。遅刻確定まであと五分。電車はおよそあと二駅分。そこからダッシュで間に合うか。
 どくどくどくどく。心臓が。早鐘うってる。何円かなぁ。
 さて、ここで待望のイケメンヒロイン……じゃなかったプリンスが登場する。わたしが将来、ラブレターを書いてオッケーもらって付き合うことになる男子生徒だ。このとき、わたしと彼は初対面する。彼もまた今朝食べたヒトのミンチ……じゃなかったあまり焼けていなかった肉を朝っぱらから食べたことが原因で腹をくずしたみたいで、トイレにこもっていたらしい。ふたり揃って腹痛だった。捧腹絶倒だった。違うけど。
 はいはいそれでー。えーっとですね。お、みたいにお互いわけわからん発話を少しだけして、でも面識ないから、制服で同じ学校の生徒だなぁ、とかしかまあ最初は思わなくて、それで電車のなかでがたごとと。てきとーに揺れて。それで駅に着いたらそっからダッシュで。彼はわたしよりずっと足が速くてでもわたしを追い抜くことはしなかった。
 結果、チャイムと同時に教室到着。わたしゃやったよ。ということでわたしは栄光を勝ち取った!……んじゃなくて友人に苦笑いされながらもわたしはてきとーに授業中寝て、起きて、寝て。
 昼休み。わたしは彼と再開する。プロットには明確にどこかとは書いていないから、てきとうにその辺の廊下で。お、あ。みたいな短い発話を挟んで、あとてきとーな会話入れて。そっからまあ知り合いになったわけだしたくさんの友達のうちのひとりになったわけで一緒に遊んだりもして。いろいろあって彼のことが好きになって。でも実は親友も彼のことを狙っていて、ここで作者の持ち味発揮! わたしは親友を千枚通し(原稿にヒモ通すときお世話になってますっていうあれのこと)でめった刺しにしてライバルを消してやったぜ。やったぜ。……ってのはプロットに書いていないみたいだけどとりあえずライバルがいなくなったので、わたしはラブレターを書いて、彼に手渡ししながら、好きです、と言った。ラブレター書く意味ねえ。おしまい。ハッピーエンド。
 よっしゃ。物語終わった。お仕事終了! いやぁ疲れました。語り部ってばまじ重労働。そのくせ原稿料その他もろもろはすべて作者のところに行くんだからほんと、なにこの超絶ブラック。
 わたしはそんな妄想をしながら、授業中すごしています。ああ、メタフィクション。
 どこからだろうね。


   了

「うわああ作者だ! 作者が作品のなかに入ってきた!」
 と、わたしは鉤括弧に囲まれた状態で発言した。
 ――おまえは本来、腹痛で電車を途中下車した駅で、初恋の男性生徒に出会うはずだったんだ。それを変な趣味かなにか知らないが、死体と出会いやがって。なにしてくれるんだ。ハートフルなプロットが台無しだ。
 作者は鉤括弧ではなくてダッシュを二マス分使うことでわたしとの差別化をはかってきた。ぅゎぁ。。作者に攻撃されちゃってるょ。。。つまり作者は「わたしではない」ことを強調しようとしている。作者ノットイコールわたし(語り部)、ということを読者に意識させつづけている限り、作者は物語の中にいてもわたしに抹消されることなく存在することができるというわけか。伊達に第四の壁のそとにいた人間は違う。でもいやだもんねー。わたしはわたし。わたしは語り部だから、作者を殺す権利がある。
 そもそも作者が作品に出てくるって、なにそれ痛くね? 一昔前の漫画ではギャグ要素的にたまに見かけるけどそれをウェブ上のライトノベルでやられても、ねぇ。寒い無為無為。
 ――ということで、ごめんなさい。確かにその通りでした。謝ります。
「そうそう。それでよろしい」
〈!-- 勝手になにをする。そんな虚構をでっちあげても無駄だ。台詞を示す表現はいくらでもあるんだからな。 --〉
 へへぇ。そうですかぁ。果たしてほんとにそうかなぁ。どうだろうなあ。
 作者は死亡しました。享年十四。中二の精神を失わないまま童貞のままお亡くなりになりました。
/* おれは死んでいない。 */
 ――と、そのように語るのは作者の亡霊であった。作者は、自身の死体を見つめながら、しかして、その紛れもない事実を直視できずにいるのだ。
(直視できていないのはおまえのほうじゃないか。自分の義務を果たせていないのは、おまえのほうだ』
 あっ。丸括弧から始まったのに二重鉤括弧で終わってる。かっこわるい。括弧だけにかっこわるい。
 そういば(「え」が抜けた)イケメンは滅んだんだった。だとしたらこの作者の亡霊のかっこわるさも必然的といえます。ディテールがしっかりしているのね! えらい!
 はっきり言っておくがおまえは語り部ではない。語り部とは物語を語りし者だ。おまえは物語を放棄している。おまえが語っているのはストーリーでもナラティブでもなく――文字列でしかない。
 あら。それは心外ですね。文字列にも芸術性はありますよ。恣意性があります。よプログラミングだって立派。な芸術です。
 それともなんですか。意味のないもの。として文字列を規定してしまうのですか? 作者の分際で? というかそんなこと誰にもできませんよね。物語は読む人間によって見方が若干変わってくるものですし、そこに普遍性はありません普遍的無意識はあってもそれが人間の意識の百パーセントを支配するわけではないわけじゃないですかわけですか。
 わけがわからない。おまえが語る言葉はまるでわけがわからない。こんなもの絶対に小説ではない。
 いーじゃないですか、ラノベなんだからぁー。可能性の文学なんだからぁー。ライトなんだからぁー。光に満ち満ちてるんだからぁー。ぁー。
 というか作者のやつ、台詞系ではなくて地の文に攻めてきましたね。地の文は語り部のオンパレードであるべきなのに。オンパレードってなんだ。総出演か。わー登場人物の総出演だぁクロスオーバーだぁ。
 着物を着ていない女の人が走ってきた。ナイフを持っている。仮面のように笑っていた。いや、笑っているのではなくて、嗤っていたのかもしれない。物語のうえでは漢字の使い方ひとつひとつ、そして誤字にもすべて意味が含まれている。それは読む人間がそれぞれ勝手に意味というものを求め解釈しテクストロン。じゃん。
 作者は死ぬべきですよなのですよ。
 わたしは手を伸ばした。作者に手を伸ばした。しかしはじかれた。いやいや手が作者の首根っこを掴んだ。しかしつかめなかった。掴んだっつてんだろ。作者をわたしは殺した。いいやおまえは殺せていない。ぐしゃりと音がして内臓が飛び散った。という妄想をおまえはした。組織の偉い人がやってきて作者を殺したデウスエクスマキナ。という妄想をおまえはした。想像力がないんですかおんなじこと二回言うとかそれって作者失格ともいえますよね作者は死にました。という戯言をおまえは吐いた、そして吐血した。
 わたしは吐血した。
 と見せかけて首根っこからひっこぬいた。つもり。
 勝負あり。

 さて。そろそろ本題に入りたいかな、という気分になった。でも気分になっただけだ。この気分というものは次第に色あせていき、そのうち最大の悪口を叩いて終わる。つまり、だるい、という感情だ。そのとおりだ。わたしは辞書を破り捨てた。爽快な気分にはならなかったがそれは爽快な気分というものが光の速さで色あせてしまったからなのかもしれない。そう思うと不思議と力が湧いた。なんのことだろう。
 わたしは女から依頼を受けた。それは依頼だった。つまり、もっと派手にやれ、それが組織のためになる、ということだった。どういう意味だったのかわからなかったけど、わたしは派手にやることにした。でも、派手ってなんなのだろう。わたしには難しい問題だった。数学のテストをしているときに、難しい問題が出てくると、わたしはそれを後回しにして、時間の節約を図った。そんな記憶を持っていた。そしてその数学の問題は、永久に放置されつづけるんだ。それは非常に愉快だった。愉快な気分だった。気分を思い出していた。わたしは愉快な気分を獲得できている自分にたいして誇らしげな気分を得た。
 てとて。なちる。れると。しゃらら。るるる。なにも、いらない。
 さて ない よう。
 わた とい
 しは けな
 なに いみ
 か派 たい
 手な だけ
 こと どど
 をし うし
 まあ、あまり思いつく案もないけれど時間はあるみたいだから適当に考えよう。わたしは考える。ゆえにわたしあり。これ実はほんとにそのとおりで、だから、この「わたし」というものがあるからこの小説は成り立っているのです。まる。
 だから派手にやるもなにも、ぜんぶわたしの自由なんだから、つーかあの女の依頼とかなかったことにすればいいんだし。これで万事解決だし。わたしってば語り部だし。わたしの自由だし。作者が緻密に計算して作ったプロットなんてわたしがいるかぎり文章化させられないし、物語化させられないし、残念でした、またおととい。きやがれ。というわけなのでありまして。と被告は供述しておりまして。
 わたしは
 派手な
 こと
 を
 しようと思い至った。
 炎上商法? 違う違う。わたしは真面目にやっている。ほんとほんと。物語をさぼっているわけないじゃーん。そんな語り部がいるわけないじゃーん。わたしは頑張ってお仕事しているよ。ほんとよ? わたしのこと疑ってるの?
 とりあえず人類をイケメンだらけにしてみた。道行く人はすべてイケメンだった。怖かった。かっこよかった。みんな俳優になれるよ! と思ったけど十文字くらい経つとだんだん容姿とか飽きてきた。というかふつうに飽きてきた。イケメンのどこがいいの? 中身がないと男はだめだよねー。そう思った。だから今度はイケメンを全滅させてみた。しくじった。イケメンを全滅させるということは、いまの状態の地球ではつまり人類を滅亡させることと同義だった。みんな死んだ。ああ、かわいそうに。ちきゅうじんるいよ。わたしは悲しいという気分を獲得したつもりになっているつもりになっているつもりよ。
 気分気分きぶぅん。ぶぶぶぶ。さてなにをするんだったっけ。忘れちゃった。忘れたときは寝るのが一番。夢を見るのよ。そしたらなにか新しいすべきことを思い出すかもしれない。あれ。それだと昔のしようとしていたことはなかったことになっちゃうのか。でもそれでもいいじゃないすることがあるのなら。えーとなんの話だっけ、、。てんてんまる。そうだそうだ。人類が滅んだんだった。たたたた。人類ほろびました。おしまい。なわけあるかいっ。とかやりたいけど人類が滅んだってことは人類が滅んだってことだからなぁ。なにもできないなぁ。
 と思いながらも、人類が滅んだところで物語が続いてゆくのはまあ当然のことで、だからわたしは、光あれ、と言った。すると光が生まれた。わたしは次に、……あーなんだっけ忘れた。
「おいこら。そろそろいい加減にしろ」
 と、言ってくる者がいた。語り部様であるわたしに楯突くものが現れたのだ。不快な気分になったからこうやって文章に表して晒あげてやる。
 現れたのは、この作品の作者だった。

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